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東京高等裁判所 昭和55年(う)1952号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人A、同B、同C子、同D子につき、同被告人らと弁護人仙谷由人、同中根洋一の六名共同作成名義の控訴趣意書、弁護人仙谷由人、同中根洋一両名共同作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書、被告人E子につき、同被告人、弁護人仙谷由人、同中根洋一の三名共同作成名義の控訴趣意書、弁護人仙谷由人、同中根洋一両名共同作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書、弁護人後藤昌次郎作成名義の控訴趣意書、補佐人岡田了平作成名義の控訴趣意書にそれぞれ記載されたとおりであり、これらに対する答弁は、検察官五味朗作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、引用する。

被告人五名、弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第二について

論旨は、本件は検察官の請求により千葉地方裁判所から東京地方裁判所に移送されたものであるが、(一)検察官は右移送請求書において起訴状記載の事実の範囲を越え事件の内容、影響、背景事情にまで触れ、これによって裁判官に不当な予断を与えたから、刑事訴訟法二五六条六項に違反し、(二)また、千葉地方裁判所のした移送決定は同法一九条一項の解釈を誤り不法に東京地方裁判所に管轄を設定し、(三)さらに、原審が弁護人からの他の関連被告人との併合申立を却下したことは同法三一三条一項に違反する、というのである。

よって、検討すると、記録によれば、被告人A、同B、同E子は、昭和五三年四月一六日、同C子、同D子は、同年五月一八日、兇器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害被告事件につき、千葉地方裁判所に公訴を提起されたが、同年六月一九日、検察官から、被告人E子が東京都内に住所を有しかつ右各事件が刑事訴訟法九条一項二号の関連事件であるので東京地方裁判所に管轄権があるとして、同法一九条一項により移送の請求があり、千葉地方裁判所は被告人らの意見を聞いたうえ同月三〇日東京地方裁判所へ移送する旨の各決定をし、これに対して同年七月四日弁護人らから即時抗告が申し立てられ、同即時抗告は、東京高等裁判所において同年八月一五日棄却されたことが明らかである。

ところで、検察官作成の移送請求書にある所論の記載は、刑事訴訟法一九条一項による移送の請求に必要な限度において、東京地方裁判所が本件のすべてにつき管轄権を有し、かつ、同裁判所で審理するのを適当とする理由をふえんしたにすぎず、千葉地方裁判所は右請求の当否を判断して本件各被告事件について東京地方裁判所にも管轄権があることを肯定し、訴訟経済と当事者の訴訟上の利害等の諸事情を検討して移送の決定をしたにとどまるのであるから、原判決裁判所の裁判官が事件につき予断を抱いたとは解されない。したがって、本件につき同法二五六条六項違反があったとはいえない。

そして、右移送の決定は抗告審の判断を経て確定し、内容的にも拘束力を生じて、本件各被告事件が管轄権を有する東京地方裁判所に適法に係属するに至ったのであるから、原審がその訴訟を進行させたことに違法はない。所論引用の判例は本件と事案を異にし適切ではない。

また、被告事件を併合して審判するか分離して審判するかは裁判所の健全な裁量により決すべきものである。原審第一回公判期日において弁護人ら及び被告人E子から東京地方裁判所の他の刑事部に係属する被告事件との併合申立がなされたのに対し、原審は、被告人の個別性の把握・識別ないし訴訟指揮権の適切妥当な行使等の可能性の限度、訴訟の円滑な進行のための法廷における人的物的要素その他諸般の事情を考慮して、右の申立を却下したことが記録によって明らかに認められるのであって、原審のこの措置がその裁量を逸脱した違法不当なものとは解されず、また、これがために被告人らの利益を害する結果を生じた形跡はうかがわれない。論旨はいずれも理由がない。

被告人五名、弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第三、弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第二の二の(二)、第三、弁護人後藤昌次郎の控訴趣意第三点、第四点、補佐人の控訴趣意〔1〕〔2〕〔4〕について

論旨は多岐にわたるが、要するに、原判決の認定した被告人らの共謀、共同加害の目的、警察官の傷害の点に関して、事実誤認、採証法則違反等の違法がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し当審における事実取調の結果をも加えて順次検討する。

原判決が認定した罪となるべき事実は、次のとおりである。

被告人らは、かねてから新東京国際空港(いわゆる成田空港)の建設に反対する闘争を支援していたものであるところ、開港予定のせまった昭和五三年三月二六日、同空港建設反対派が同空港周辺で「開港阻止決戦勝利」等を呼号して過激な集団行動に出た際、いずれもこれに加わり、同日午後零時三〇分過ぎころには、約七〇〇名の者とともに、千葉県香取郡多古町一鍬田三三番地星華学院グランドに集結し、前部にラッセル車様に鉄骨鉄板を取りつけた普通貨物自動車一台のほか、小型貨物自動車一台に火炎びん(ビールびんを使用し布栓の点火装置を施したもの、以下同じ)や石塊を積み込み、これらを先頭にして、火炎びん、鉄パイプ等を携帯した多数の者らと隊列を組んで同空港に向かい、途中警察部隊の規制等によって隊列を分断されたりしたのち、同日午後一時三〇分過ぎころ、約三〇〇名の集団で同県成田市古込字込前一二二番地先の八の二ゲート付近に至ったが、右の約三〇〇名の者と共謀のうえ、

第一  同日午後一時三〇分過ぎころから同日午後二時一〇分ころまでの間、前記八の二ゲート付近から同市古込字込前一三三番地千葉県新東京空港警察署前、同所から右八の二ゲートを経て同市古込字古込一〇番二先の八の一ゲート付近に至る路上及びその周辺において、違法行為の規制、検挙等の任務に従事中の多数の警察官らの生命及び身体に対し、共同して危害を加える目的をもって、前記多数の者とともに、多数の火炎びん、鉄パイプ、石塊等の兇器を準備して集合し、

第二  同日午後一時三〇分過ぎころ、前記貨物自動車二台を先行させて、前記新東京空港警察署正門の門扉にラッセル車様に加工した一台を激突させたうえ、右二台に乗り込んでいた約二〇名の者が路上に降り、違法行為の規制、検挙等にかかった同警察署内外に配置中の警察官らに対し、点火した火炎びんを投げつけて炎上させ、鉄パイプで殴りかかるなどの暴行を加え、さらにその後同日午後二時一〇分ころまでの間、右約二〇名及びこれに後続してきた多数の者が、同警察署近くの一〇ゲート前交差点付近から前記八の二ゲートを経て前記八の一ゲート付近に至る路上及びその周辺において、右警察官ら及び同様任務のため応援に駆けつけた神奈川県警察本部警備部第一機動隊、千葉県警察本部警備部第一機動隊、同第二機動隊等所属の多数の警察官らに対し、点火した火炎びんを投げつけて炎上させ、石塊を投げつけ、鉄パイプで殴りかかるなどの暴行を加え、もって、火炎びんを使用して右警察官らの生命及び身体に危険を生じさせるとともに、右警察官らの職務の執行を妨害し、その際右暴行により原判決書添付の別表記載のとおり、内海博ら二二名の警察官らに同表記載の各傷害を負わせ

た、というものである。

(一)所論は、被告人らが右集団の一員であった証拠はなく、八の二ゲート付近にいた事実はない旨主張するが、関係証拠によって認められる本件集団の動き、被告人らが逮捕された時間、場所、逮捕時の状況、被告人らの服装等によれば、本件当日被告人らが本件集団に加わりこれと行動を共にし八の二ゲート付近に赴いた事実を肯認することができるのであって、所論は採用することができない。

(二)次に、所論は、被告人らに共同加害の目的はなく、ことに被告人A、同E子は救護班であり、また、被告人C子、同D子は傷者を救護していたのであるから、一九四九年八月一二日のジュネーヴ条約及び右ジュネーヴ条約に追加される二つの議定書(一九七七年六月一〇日)の精神に即して保護されるべきであるのに、被告人らに共謀を認定し共同加害目的を肯定した原判決は憲法一三条に違反し刑法六〇条の解釈を誤り事実を誤認したものである、という。

しかし、原判決の挙示する各証拠を総合すれば、被告人らに共謀及び共同加害目的の存したことを肯認することができ(る。)

〈証拠判断省略〉

もっとも、被告人A、同E子が当日救護班に編入されたが、同被告人らには赤色ヘルメットをかぶり、そのヘルメットに白テープを十字に貼っただけで他に救護班員であることを示す標識はなく、顔に覆面をしヤッケにジーパンをはきバッグを背負うという他の集団員とほぼ同様の服装をし、組となって集団と行進を共にしていたことが関係証拠によって認められる。

そして、被告人Aは、検察官に対する供述調書(昭和五三年四月一一日付及び同月一五日付)において、「私は救護班ですが、勿論怪我人が出れば救護する係ではあるものの、私の属している隊の仲間と一緒になって空港に突入して占拠するつもりはありました」「国や公団が機動隊を前面に出してゴリ押しに実力行使するならばこっちも実力を持って機動隊と闘い開港を阻止すべきだという考えでした。仲間のみんなと一緒に力を合わせて実力で阻止しようという気持でした」「大がかりな闘争ですから集団の仲間にも負傷者が出ることは予想できますし、そのため救護班が必要だと思いリーダーの指示に従ったのです。ここまで来てしまった以上その時の状況により任せるより仕方なく、火炎びん班や鉄パイプ班ができて、機動隊を攻撃することは判りましたが、その仲間と行動を共にし空港に突入しようと思ったのです」と当時の心境を述べている。

これらの供述調書は被告人Aの勾留中に録取されたものであるところ、〈証拠省略〉を総合して考察すれば、被告人Aに対する本件逮捕手続の適法性については若干の疑問があるところであるが、それが著しく違法であるとはいえず、また同被告人に対する勾留手続には何らの瑕疵も認められない。したがって、右の逮捕手続が同被告人の勾留中に捜査官によって作成された供述調書の証拠能力に何らかの影響を及ぼすものとは解されず、さらに、所論のように不起訴の約束にもとづく等任意性を欠くと解すべきべつだんの事由は認められない。右各供述調書を子細に検討しても、とくに不自然不合理な点は見受けられず、他の関係証拠とも照応し、ゆうに信用することができる。

これによれば、被告人Aが実力をもって開港阻止を標榜する集団の一員としてその現場にいながら、直接実行行為に加担しなかったとしても、火炎びんや鉄パイプ等を所持する他の者らと、警戒警備中の警察官に対して攻撃を加える意思を共通にし、これら共謀者の実行行為を介して自己の犯罪敢行の意思を実現したことを明らかに看取することができ、同被告人と終始行動を共にしたことの証拠上明らかな被告人E子も同じ意思・目的を有していたことをゆうに肯認することができる。

被告人C子、同D子は、救護班でなく、逮捕された当時たまたま負傷者の傍にいたことがうかがわれるものの、同被告人らが前記のごとき意思目的の点において本件集団員と一線を画していたとは認められない。

本件について所論の援用する一九四九年八月一二日のジュネーヴ条約は、その第一条約第二四条において「傷者もしくは病者の捜索、収容、輸送もしくは治療または疾病の予防にもっぱら従事する衛生要員(中略)は、すべての場合において尊重し、かつ保護しなければならない」旨を規定する。

右条約は、戦時または国際紛争時に関する規定であるから本件のようなわが国内におけるいわゆる「集団的権力闘争」の場面に直接適用されるものではないけれども、同条約の基調である人道的博愛主義的理念はこの場合にも妥当し尊重さるべきことはいうまでもない。被告人A、同E子は、本件集団内において救護班として右条約にいわゆる衛生要員に類似する如き役割を分担していたとはいえ、両被告人は、もっぱら右の役割に従事していたのではなく、前記のように本件集団の構成員として、警備中の警察官らに対して兇器をもって攻撃を加える犯罪的意思を有し、犯行現場に臨み、他の共謀者らの実行行為を介してその意思を実現したものである以上、たまたま右のような役割を分担していたからといって右の犯罪の成立が阻却されるものとはとうてい解されない。

以上のとおりであるから、被告人らの本件各所為に刑法六〇条を適用した原判決に、所論の違憲違法ないし事実誤認があるとは解されない。

(三)所論は、原判決が弁護人の主張に対する判断の項において、「被告人らが自ら積極的に火炎びん等の兇器を所持し、あるいはこれらにより警察官らに対し攻撃を加えたことを認めるに足りる的確な証拠はない」と判示して、被告人らの関与を否定し、あるいは、関与しないことが明白であると認めながら、他方で「被告人らが直接犯行そのものに関与したか否か不明である」と判示しているのは、矛盾であり理由にくいちがいがある、という。

記録によれば、原判決は被告人らが判示第一の事実について自ら兇器を所持したことも共同加害の目的をもっていたこともなく、判示第二の事実について犯行そのものを実行したことがない旨の弁護人らの主張に対して、証拠を検討し所論前段の判示をしたもので、必ずしも被告人らの関与を否定し、または関与しないことが明白であると断定した趣旨とはみられない。そして、所論後段の判示は訴因変更手続の要否の箇所において「被告人らが他の共謀関係にある共犯者らとほぼ終始行動をともにし、その間に犯行がなされたが、被告人らが直接犯行そのものに関与したか否かが不明であるというような場合」と判示しているにすぎず、両者の表現を比較考察しても、格別矛盾するものではなく、理由に齟齬があるとは考えられない。

(四)所論は、原判決は警察官篠原幸弘、同畔田隆康、同石毛伸治、同畑中聡良に対しても傷害を負わせたと認定したが、同警察官らが負傷したことは疑わしく、事実を誤認したものである、という。

しかし、原判決の掲げる原審公判調書中の証人篠原幸弘、同畔田隆康、同石毛伸治、同畑中聡良の各供述部分、畔田隆康、石毛伸治、畑中聡良の別件における各証人尋問調書はいずれも原判示に添う趣旨のものであり、その内容を子細に検討しても、所論のように虚偽を述べた可能性は認められない。のみならず、各人の負傷の部位、程度に関する供述は、医師田辺邦彦作成の右四名の警察官に対する各診療録写の謄本によって十分に裏づけられている。

以上の関係証拠を総合すれば、右篠原、畔田、石毛は千葉県警察本部第一機動隊第一中隊に所属し、畑中は新東京空港警察署に勤務する警察官であって、本件当日、本件集団に属する者らが警察官らに対し火炎びんを投擲する等の行動に出たためその規制、検挙活動に入った際、それぞれ鉄パイプで殴打されて原判示の傷害を受けたことがゆうに認められ、原判決が同警察官らの傷害の事実を認定したことに誤認があるとはいえない。

叙上のとおりであって、論旨はいずれも理由がない。

弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第二の一及び弁護人後藤昌次郎の控訴趣意第一点について

論旨は、いわゆる共謀共同正犯を認めることは憲法三一条に違反するものであり、かりにそうでないとしても、原判決が罪となるべき事実の記載において共犯者間における実行行為の分担、方法並びに共謀の日時、場所等の判示をせず、これを認定した証拠も挙示していないのは、刑事訴訟法三三五条一項違反である、というのである。

いわゆる共謀共同正犯の理論を認めることが憲法三一条に違反するものでないことはすでに確立した判例であって(最高裁判所昭和三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁等参照)、当裁判所もこれと見解を同じくする。それゆえ原判決が被告人らの本件各所為に刑法六〇条を適用したことに違法はない。そして、判決において共謀共同正犯の事実を判示するには、判文上、罪となるべき事実として共謀の事実を明確にしさえすれば足り、共謀の日時、場所、方法、共犯者各自の分担行為等について逐一具体的に記載する必要はなく、また、証拠としては、原判決のように共謀の事実を認めうべき証拠の標目を示すことをもって足り、証拠の取捨判断等の理由説示を要しない。右と異なる見解に立脚して原判決を論難する所論は採用することができない。

弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第二の二、弁護人後藤昌次郎の控訴趣意第二点、補佐人の控訴趣意〔3〕について

論旨は、原判快が訴因変更手続をとらずに実行共同正犯の起訴を共謀共同正犯と認定したのは、刑事訴訟法二五六条二項、二九六条、三一二条、憲法三一条に違反し、審判の請求を受けない事件について判決をしたものである、というのである。

記録によれば、被告人らに対する本件起訴状記載の公訴事実の概要は次のとおりである。

被告人らは、ほか多数の者と共謀のうえ、

第一  昭和五三年三月二六日午後一時三〇分ころから同二時一〇分ころまでの間、新東京空港警察署前路上から成田市古込字込前一二二番地先を経て同市古込字古込一〇番二先に至る路上及びその周辺において、同所周辺における違法行為の規制・検挙などの任務に従事中の多数の警察官らの生命、身体に対し、共同して危害を加える目的をもって、前記多数の者とともに多数の火炎びん、鉄パイプ、石塊などの兇器を準備して集合し、

第二  前記日時・場所において前記任務に従事中の前記警察官らに対し,鉄パイプで殴打し、多数の石塊・火炎びんを投げつけるなどの暴行を加え、もって火炎びんを使用して右警察官らの生命・身体に危険を生じさせるとともに、同警察官らの職務の執行を妨害し、その際前記暴行により警察官二三名に各傷害を負わせ

た、というものである。

検察官は、原審第一回公判期日において右の共謀の点につき、「昭和五三年三月二五日から同月二六日午後零時五〇分ころまでの間、千葉県山武郡芝山町朝倉四九番地朝倉団結小屋、同町香山新田九六七番地旧菱田小学校跡地、同県香取郡多古町一鍬田三三番地千葉星華学院において公訴事実記載の各犯行を内容とする共謀をしたものであり、共謀共同正犯と実行共同正犯を含む趣旨である」と説明し、第二回公判期日で、証拠により証明すべき事実を明らかにしたうえ、第三回公判期日で、公訴事実第一につき、被告人A、同E子ら救護班員を除く全員が、各自火炎びん、鉄パイプ、角材、石塊のいずれか又はその複数を携行し、被告人A、同E子らとともに空港に向けて出発したこと、公訴事実第二記載の警察官の各傷害につき共謀共同正犯による責任を問うものであるが、実行に及んだ者については実行共同正犯としての責任も問う意味である旨釈明した。ところが、第五回公判期日で、被告人らは各公訴事実のすべてについて実行共同正犯であるとしながら、負傷警察官らに対してなした行動を不詳であると述べ、第七回公判期日では、被告人らは各公訴事実中にある犯行日時場所において共同実行の意思があり、共同で兇器を所持し暴行を加えたものであって、さきに、被告人A、同E子が兇器を携行していなかったとしたのは、同被告人らが直接に兇器を手にしなかったが他の者と共同して所持したという主張であり、また、被告人らの個々の行動は不詳としたが、他の者と共同して集団として本件各犯行に関与したという主張であると陳述するに至った。そして、第一八回公判期日の論告において、被告人らが最初から本件集団に加わっていた者として各訴因について共謀共同正犯としてはもとより実行共同正犯としても刑事責任を負う旨意見を開陳し、これは従前の主張を変えたものではなく、また、右の共謀共同正犯における共謀は公判の攻防に現われなかった状況下で行われたとするものではなく当日現場共謀のかたちで行われたと主張するのであるから、被告人らの防禦権を侵害することはない旨答えている。

右のように本件共謀の態様についての検察官の意見は変遷しているけれども、要するに、検察官としては、被告人らが本件集団に直接参加し犯行現場にあって互に他の者と共同して犯行を実現する認識のもとに行動したという事実関係に立って、実際に実行行為に出た被告人に対して実行共同正犯、そうでない被告人に対して現場共謀による共同正犯としての責任を追及していると解される。

原審においては本件集団の行動及び被告人らの関与の有無等についての審理がなされ、証拠調の結果、原判決は、被告人らが他の共謀関係にある共犯者らとほぼ終始行動を共にし、その間に犯行がなされたが被告人らが直接犯行そのものに関与したか否か不明であるとし、いわゆる現場共謀にもとづく犯罪の成立を認めているのであって、いわゆる事前共謀による共同正犯を認定しているものではないから、本件における審理の経過等にかんがみるときは、原判決が訴因変更の手続をとることなく被告人らに対し現場共謀による共同正犯の責任を問うても、被告人らの防禦権を無視し不意打を与えたものとはいえず、所論の非難は当らない。所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法は認められず、論旨は理由がない。

被告人五名、弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第四について

論旨は、原審公判調書中の証人諏訪登三雄、同篠原正俊、同酒井康夫、同太田良照寿の各供述部分は虚偽の事実を述べ、また、司法巡査宮内勝作成の写真撮影報告書は何人かによって改ざんされているのに、これらを罪証に供した原判決は、採証法則を誤り事実を誤認したものである、というのである。

記録を調査して検討すると、原審証人諏訪登三雄は被告人Aを、同証人篠原正俊は被告人E子を、同証人酒井康夫は被告人C子を、同証人太田良照寿は被告人D子を本件当日それぞれ逮捕した警察官であるが、同証人らは逮捕時の状況等を各自の経験にもとづき具体的に述べており、ことさらに事実を曲げて証言しているふしはうかがわれない。また、司法巡査宮内勝作成の昭和五三年三月三〇日付写真撮影報告書及び原審第五回公判調書中の証人宮内勝の供述部分を総合すれば、右写真撮影報告書中の撮影場所等の表示に所論の指摘するような訂正が施されているが、同人は当該箇所に自己の印章を押捺し、自己の意思による訂正であることを明らかにしているのであるから、第三者がほしいままに改ざんしたとの所論は採るを得ない。

したがって、上記の各証拠を採用した原判決に訴訟手続の違法ないし事実誤認は認められず、論旨は理由がない。

被告人五名、弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第一について

論旨は、被告人らの本件闘争は正当行為であって超法規的違法阻却事由を具えているのに、原判決がこれを看過したのは事実を誤認したものである、というのである。

しかし、関係証拠によれば、被告人らの本件各所為がたとえ所論のような違法な国家権力に対する防衛の意図に出たとしても、被告人らは法の許容しうる意見の表明にとどまることなく、罪となるべき事実で認定した態様による過激な実力行動に訴えているのであり、かつ、本件当時被告人らがこのような行動をとらざるをえなかった特段の緊急事情や急迫不正の侵害があったとはいえず、被告人らの本件所為は現行法秩序上とうてい正当性を有しないものといわなければならない。その他全証拠を子細に検討しても本件について違法性を阻却すべき事由があるとは認められないから、原判決に所論の事実誤認の瑕疵はなく、論旨は理由がない。

弁護人仙谷由人、同中根洋一の控訴趣意第四について

論旨は量刑不当の主張である。

記録及び証拠物を調査し当審における事実取調の結果をも加えて考察すると、本件事案は、前示のとおり、新東京国際空港の開港を実力で阻止しようと図って敢行された大規模かつ計画的集団的犯行で、その行為態様も法秩序を無視した危険なものであり、本件が社会に与えた影響も大きく、被告人らはこの際相応の刑責を免れない。

被告人A、同E子が救護班に編入されていたこと、被告人らはいずれも逃走過程で逮捕されたこと、被告人Bに業務上過失傷害罪による罰金刑の前科があるほかは、他の被告人らに処罰歴がないこと、その他被告人らの身上、家庭の状況等の諸事情をすべて斟酌しても、原審の量刑(各懲役二年執行猶予五年)が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

よって,刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村治信 裁判官 林修 雛形要松)

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